身辺が身の回りということなら
   心辺というのは心の回りということだとして
   そうした心辺について(二)









  まるでだれかによばれてるように
  あるいてきたようだと感じるときはある

  そしてたどりついてはじめて
  ここへきたかったんだ自分はと

  ここが自分のさがしてきた土地だと
  気づくとき

  地面に腰をおとししゃがんで
  土をすくい顔になでつけ

  その土のまじりものだらけのにおいが
  自分をよんでいたんだと知る

  木々がむこう奥まで続いている
  日がさすのは午前中ばかり
  午後には風がつよまり曇り雨が降りつける

  あるいていくもっと先へもっとじぶんを
  つよくよんでいると感じる奥へ奥へ

  流れ落ちているのは跳ねあがっているのは
  水のようなしぶきのような

  肌にあたってくるものはあたたかだ

  なぜあたたかだ
  あれほど激しく流れ落ちている
  跳ね散っているのがなぜあたたかだ

  奥へ奥へ

  流れ注いでいるその淵へ
  身を飛びこませてみる

  あたたかい
  しおからい
  からだにここの水はきつくざらついてあたってくる

  口端から入ってくる
  舌にさわりしおからさと
  やわらかいぬめりがする

  たきつぼの底をめざす
  底にあるのがよんでいるもので
  もぐっていっても決して危険じゃないのがわかる

  しずんでいく
  身をしずめていく

  あたたかいしおからい
  しだいにあたりがきつくなっていく
  水流をもっともっと奥へ

  たどりついたなら
  ただよばれていったんじゃない

  もとめてきたから
  たどりついたんだと
  そうつたえよう

  たきつぼの底のいたみとあたたかさを
  のぞみきっとかならずそこに着く